「多忙なマネジャー層に、研修を受ける意味を理解してもらうのが難しくて……」
そんなお悩みを、企業の経営層や人事部門の方から時々聞きます。
たしかに、ひと昔前と比べて、今のマネジャーの仕事は格段に複雑になり、高度化していると言われています。
コンプライアンス遵守のための細かな管理や部下のキャリア支援など、以前はそれほど求められなかった仕事も肩に乗せたまま、プレイングマネジャーとして現場を走り回っている方も少なくありません。
スケジュールがびっしりと埋まっていそうなマネジャーに対して、「研修をセットしたので参加してください」と案内するのを思わずためらってしまう……。その気持ちもよく分かります。
でも、「だからこそ、研修の意味があります」と私は言いたいのです。
そもそも研修の目的とは何でしょうか?
私は「軌道修正のきっかけづくり」だと思っています。
息つく間もなく目の前の仕事に一生懸命取り組んで、流れに身を任せていると、本来は大事にすべきマネジャーとしての姿勢や優先課題を見失ってしまうことがあります。優秀なマネジャーほど「自分のやり方は間違っていない」と陥りやすい、というトラップもあります。
だから、定期的に軌道修正できる機会を持つことが大切なのです。
日々流れていく業務を離れて、一旦立ち止まってみる。
そして、自分の仕事の全体像をふりかえり、目標や課題についてあらためてじっくりと考え、自分の言葉にしてみる。
すると、優先して取り組むべきことがクリアになって、翌日の仕事の取り組み方に変化が生まれる。無意識に生まれていた“ズレ”が整い、心機一転、前向きなモチベーションが湧いてくるはずです。
そんな時間を私は提供したいと思っています。
例えば、「タイムマネジメント研修」は、時間管理や業務の段取りを普段どのように進めているかを客観的にふりかえりながら、より効率的な方法へブラッシュアップする方法を習得する機会に。先延ばしにしていた重要な仕事に気付き、研修がその重要事項に着手するきっかけになることもよくあります。
「キャリア研修」では、これまでの仕事の経験を棚卸しした上で、中長期の目標をイメージするステップをガイドします。そして、自分が描く目標に近づくために必要なスキルや経験を明確にし、目の前の業務に反映したり、将来の異動希望などに活かしたりと、「キャリアの軌道」を修正あるいは微調整するきっかけをつくります。
こうした機会は、研修という“非日常”の仕掛けをしなければ、なかなか得られないものではないでしょうか。
もう一つ、私が考える研修の価値は、「アウトプットの交換」です。
研修も講師によっていろいろなパターンがあると思いますが、私の場合は、参加者の皆さんがご自身の言葉で思いや考えを口にするという発話に時間をかけます。
実際、「齋藤さんの研修は、インタラクティブ(双方向)ですね」というお声をよくいただきます。
一方的に講師が解説するのではなく、参加者の皆さんに問いかけ、ご自身の言葉で表現してもらうコミュニケーションを大事にしてきました。
言葉にするといっても、完璧な意見や提案でなくてもいいのです。
不安、迷い、感想、想像……。モヤモヤした状態であってもいいので、とにかくアウトプットすることが大切だと私は考えています。
なぜなら、単に知識をインプットするだけの目的ならば、ちょっと検索するだけで優良な情報が溢れているからです。
インプットだけなら一人でいつでもできる。一方で、相手があってこそ成り立つのがアウトプットの交換です。
社歴や役職が似通ったメンバーが集まる場で、アウトプットを交換できる機会は貴重です。
自分の言葉で口にしてみることで、ハッと気づくこともあるでしょう。
他の人の意見を聞くことで、自分が大切にしたい価値観の輪郭がより明らかになる効果も。
あるいは、「自分と同じ立場のあの人はあんなに勉強していたのか。私も頑張らないと」と“健全な危機感”を得て奮起する人もいるかもしれません。
アウトプットによって、こうした「刺激の交換」や「ネットワーキング」も集合型研修の大きなメリットの一つです。
とはいえ、研修では人目を気にしてなかなか本音を言えないという方も少なからずいらっしゃいます。
ここを補うのが、個別に深掘りするコーチングセッションです。
「研修で紹介した事例を、あなたの業務に当てはめて考えてみましょう」とより具体化する対話を重ねたり、研修の場で決めた目標に向かって順調にアクションを続けられているかを確認したり、「伴走者」的なサポートが個別のコーチングセッションでできること。より実践的・持続的な支援につなげられます。
自分の言葉で自分の内面に向き合う時間を通じて、驚くほど意識が変わり、表情が明るくなる方の変化に触れるたび、私はやりがいを感じます。同時に、私自身も一人のビジネスパーソンとして前に進むエネルギーをいただくような気持ちになれます。
誰もが自分をよりよくしたいと願い、そのための行動を望んでいると私は信じています。
自分を信じて、自分を変える。勇気ある一歩を応援できる幸せを、いつもかみしめています。
そんな幸せを感じることができたエピソードについても、このコラムで時々紹介していきたいと思います。