「目標は特にありません」への健やかな答え方

定期面談やキャリア研修の場で、
上司や人事の方が必ずといっていいほどよく訊くのが
「今後の目標」についての質問だと思います。

「これからどんなキャリアを築いていきたいですか?」
「新たにチャレンジしたい仕事はありますか?」

具体的かつ前向きな答えが返ってくると、うれしいですよね。
では、相手から返ってきた言葉が「特にありません」だった場合、どう反応しますか?

「私ももういい年齢ですし、特に新たな目標を立てようとは思わないです」
「現状維持でいければ十分です」

こうした発言は、一見、後ろ向きな答えに聞こえますよね。
慌てて「そんなこと言わず、何か目標を立ててみましょうよ!」と
提案する方もいるかもしれません。

けれど、よく考えてみてください。
「現状維持」も立派な“目標”ととらえることはできないでしょうか。

「目標」というと、
今の仕事から大きくステップアップするポジションでなければいけないと思い込みがちですが、決してそんなことはないはずです。
「現状維持」あるいは「現状の延長線」も、目標として描ける一つの形だと私は思います。

面談や研修で発せられる「現状維持でいい」の意思表示には、
「今の業務内容や環境に満足している」というポジティブな意味が込められています
(断定はできませんが、可能性は大いにあります)。

ですから、まずはその言葉のまま肯定的に受け止めてみる
というコミュニケーションを試してみることをおすすめします。

ステップとしては、「今の業務内容や環境で満足している理由」を聞いてみます。
その上で、本当にその人が「現状維持」を望んでいると確認できたらば、
「どうしたら現状維持ができるか」の方法について一緒に考えていくといいでしょう。

会社の状況や周辺環境は刻一刻と変化するもの。
「今の仕事のままでいい」と望んだとしても、
何もしなければ現状維持すら難しいのがビジネスのリアルです。

「3年後も、今のように仕事を続けるためには何が必要だと思いますか?」

こんな問いかけが、やるべきアクションを具体的に考えるきっかけになります。

会社の仕事は一人では成立しませんから、周りの人たちとの協調や、
組織としての期待に応えることも不可欠です。
「もう少し後輩の育成に力を入れていったほうが良さそうですね」
といった役割の確認もしやすくなります。

一方で、本人が現状維持を望んでいても、
会社として「そうも言ってられない。年次的にそろそろ違うポジションを経験してほしい」
という場合もあるでしょう。

そこで私が研修の場でよくお伝えするのが、キャリアにおいて
「予期せぬ偶然」がもたらす価値です。

これは、「Planned Happenstance Theory(計画された偶発性理論)」として
よく知られる理論で、予定通りにならない出来事を楽しみながら、
自分の成長につなげていくマインドがキャリアの可能性を拓いていくという考え方です。

この話でピンとこない方も、
「あなた自身のこれまでのキャリアを振り返ってみてください。
今の仕事まで辿り着いたプロセスに、想定外の転機や“予期せぬ出来事”は
ありませんでしたか?」と尋ねると、
「確かにそうかも」とうなずくことが多いんです。

望まない部署異動、不得意領域の業務の担当、
まだまだ自分のことで精一杯なのに後輩指導を任される、
振り返ると誰しもこんな“予期せぬ出来事”はご経験されてきたことと思います。
そして、その経験が自分の成長につながってきたのではないでしょうか?

現状維持を望んだとしても、今の仕事からステップアップする目標を掲げたとしても、
未来は予測不能です。
「何が起きても成長の機会としてポジティブにとらえよう」と思えるマインドを持つことが、キャリアを切り拓く上で最も重要なベーシックスキルなのです。


“予期せぬ出来事”を楽しんでいきましょう。

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