「模範解答」に縛られていると気付けた女性管理職の話

「齋藤さん、次回のセッションで、私からぜひお話ししたいことがあるんです」

ちょっとドキッとするメールをくださったのは、
私が5年ほど新任管理職向けプログラムを担当している企業に勤める女性Aさんでした。
30代半ばで、将来のリーダー候補として期待されている、とても優秀な方です。

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そのプログラムは、集合型研修を3回実施した後に、
参加者の皆さんに個別コーチングセッションを3回提供するというもの。
研修の1回目では新任管理者ならではの悩みを共有し、
2回目ではマネジメントスキルをインプットする時間を。
最終の3回目では、どんなマネジャーとして活躍してきたいか、
目標イメージを描いてお互いに共有するという流れで、
個別のコーチングセッションへと移るという流れで行っています。

特に3回目の「活躍イメージ」を発表し合う時間は、皆さんから前向きな言葉が聞かれ、
空気が盛り上がるハイライトです。私は「実際にできるかどうかは考慮せず、
本当にご自身が目指す『なりたい姿』を描いて語ってみてください」とお伝えしています。

上司の期待や会社の目標設定はいったん横に置き、
ただ純粋に自分が望むイメージを描いてみることで、
やりがいの発見にもつながる、キャリア開発において意義深いメニューだと自負しています。

メールをくださったAさんも、
とてもイキイキとご自身の活躍イメージを語る横顔が印象に残っていました。

そのキラキラした様子を思い出しながら、私はすぐにメールを返信しました。
「もちろんなんでもどうぞ! Aさんがお話ししたいことを伺いたいです。
お話ししたいことはなんですか?」。

Aさんの回答は、「研修で話した『3年後の活躍イメージ』について、もう一度話したい」。
私はてっきり、さらに具体的にイメージを描きたい希望なのだろうと受け止めていたのですが、真相はその逆だったのです。

セッションの日、Aさんは率直に打ち明けてくれました。
「あのとき、私は皆の前で
『3年後は、一つ上のポジションに昇格して、
お客様に提供する価値をさらに磨いていきたい』とお話しました。
でも、発表し話し終わった瞬間に、愕然としたんです。
本心では1ミリも思っていないことを、
あたかも本当の望みのように笑顔で堂々と語ってしまったことに……。
自分で自分にショックを受けました」

常に会社の期待に応えて頑張ってきたAさん。
この日も咄嗟に「何を言えば正解なのか」と考えて、
自分の本音に向き合うより先に“模範回答”を探して表明してしまったのだと、
正直に話してくれました。

これまでずっと違和感を抱いていなかったけれど、個人のキャリア目標でさえ
周囲の評価に合わせようとする自分の思考グセを初めて自覚し、
「このままではいけない」と感じたのだと。

戸惑うような固い表情を見せるAさんに、私はあえてカジュアルに笑顔を向けました。
「あー、つい思ってもないことを語っちゃったんですね!」
Aさんの表情がほころぶのを確認してから、
「でもその違和感に敏感に気づいて、こうして言葉にして私に話してくださったことが大きな一歩ですね」と続けました。
「活躍イメージの作り直し」を提案し、ワークとライフの両面で「こうなったらいいな」と描くプランをじっくりと練ることに、その日の1時間は費やしました。


ちょっと言葉が詰まるときは、「逆に、『こうはなりたくない』という最悪パターンを描くことから、本心の希望が見えてくる場合もありますよ」とアドバイス。
Aさんも素直に言葉を発してくださって、とてもいい時間になりました。

Aさんに限らず、真面目で一生懸命に頑張る方ほど、「自分の本心」をおざなりにして、
「会社や上司のからの期待」を優先し、
結果的に迷いの壁にぶつかってしまう人は少なからずいらっしゃいます。

しかしながら、誰かの期待に合わせるだけでは、本当に心を注ぐことはできませんし、
何よりやりがいや幸福感の獲得から遠ざかってしまいます。
ですから、「自分は本当に何を望んでいるのか」にまっすぐに向き合うことが大切。
私も伴走する立場として、できるだけニュートラルな気持ちで、向き合いたいと思っています。

「こういう立場の人は、こう考えるはず」という思い込みを手放して、目の前の一人ひとりの心に向き合えるコーチでありたいと胸に刻んでいます。

答えは、その人の中にある――。

日々のセッションで確信を深めている信条です。

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