夏も終わりに近づき、そろそろ人事異動の季節です。
人員配置の調整に頭を悩ませているマネジャーの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
優秀な部下を手放すことは残念ではあっても、
異動をきっかけに、その人がより能力を発揮できる業務を得て、
イキイキと輝く姿を見られるのは喜ばしいことですね。
「やっぱり営業よりマーケティングの仕事のほうが、彼女は向いていたんだね」
業務内容が変わる異動であれば、周囲の人とも笑顔で言葉を交わすことができるでしょう。
ところが…
ところが、業務内容に変化がない異動の後、部下が見違えるように輝き始めたら、
上司であるあなたはどう感じるでしょうか?
支店間の異動など、勤務地が変わる配置転換であれば違いに気づきにくいかと思いますが、
同じフロアの営業1課から2課への異動の前後であからさまな変化が起きれば、
自然と目に入ってきます。
「私のチームではあんなにくすぶっていたのに、
○○課長のチームに行った途端にあからさまに変わるなんて……。
私のマネジメントに、そんなに問題があったのだろうか」
内心ではモヤモヤとしつつも、周囲に悩みを言えるわけでもなく、
人知れずショックに打ちひしがれているマネジャーの方は少なくありません。
そんなとき、“第三者の立場”として寄り添うのが、外部コーチである私の役目であると考えています。
とはいえ、実際には「異動先での部下の激変ショック」を
自ら打ち明けてくる方は滅多にいません。
大半の方は、問題を真正面から受け入れず、見て見ぬふりをするからです。
あるいは、
「私だけのせいじゃない。会社の方針も今とは違ったし、顧客の事情も影響していたのよね」
と自分以外の要因に責任転嫁するなど、都合のいい解釈をしてスルーしてしまうからです。
いったん「なかったこと」にできたとしても、
ご本人の心の奥には、「癒えぬ傷」として残り続けるはずです。
そんな中、この「異動先での部下の激変ショック」をきっかけに、
ご自身の成長機会へとつなげている素晴らしいマネジャーの方に話を聞くことができました。
IT企業に勤める40代のAさんは、長らく部下のBさんの育成について悩んでいたそうです。
「指示待ちで自分から動こうとしないし、会議で発言もしない。やる気があるとも思えない。
会話もあまり成り立たないので、評価はできない部下でした」
変化のきっかけは、Aさんの産休育休に伴う人事異動でした。
隣のチームのC課長の下で働くことになったBさんが、まさに激変したのです。
育休明けに職場復帰したAさんは、その変貌ぶりを目の当たりにしたのだと振り返ります。
「同じ会議に出席してビックリしました。
見たことないくらい表情が明るく、堂々と自分の言葉で発言していたんです。
まるで別人でした」
AさんはBさんをポジティブに導いたC課長の手腕にリスペクトを抱くと同時に、
自らのマネジメントのあり方を真剣に省みたのだそうです。
自分の関わり方に問題はなかったか?
そういえば、忙しいときにBさんから話しかけてきたときに、
ちゃんと目を見て耳を傾けていなかったかもしれない。
トラブルの報告を受けたとき、冷静に事実だけを聞いて
一緒に対応策を考えるサポートは充分だっただろうか。
いや、全然足りていなかった……。
自分の問題から逃げない内省の力は偉大です。
以後、Aさんは部下の話をきちんと聞くことを意識し、
部下から何か提案を受けたらまず「ありがとう」と返すことを自分に課し、
マネジャーとしてのコミュニケーションスキルを高める研修にも積極的に参加し始めたそうです。
ショックを学びの機会へと転換する姿勢が、とても素晴らしいなと私は感動しました。
見て見ぬふりせず、痛みに正面から向き合い、
自分の成長機会としてとらえられるマネジャーは、きっと周囲の信頼を集めます。
何より、真摯な学びの姿勢が、部下の方々にとっても最高のお手本になるのではないでしょうか。